オノ・ナツメ 『not simple』

 2009年も残すところあと3分の1、短かった夏も終盤、インフル感染に民主党政権誕生と、まだまだ穏やかならぬ情勢が続きそうな昨今、どうであれ、結局弱者が叩かれる社会構造だけはなんとかならんかねぇ、な今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか、fruitskukuruです。

 さて今回は、あんまりハッピーエンドばかり読みすぎると、現実とのギャップに欝発生して死にたくなるんだぜ、な気分に、この1冊。

not simple (IKKIコミックス)

not simple (IKKIコミックス)


 衝撃、である。
 主人公たるイアンが受け続ける受難に、ひたすら胸が痛くなる。

「お前の人生はすごい。
 今時、こんな映画もない、これだけの話がつまった映画だと、逆にウソっぽく見える」

 イアンという青年を、登場人物の一人はこう評した。

「真っ白ね。」

 イアンは、ただ走ることが大好きな少年で……そのまま、「ただ走ることが大好きな」青年として成長した。
 ただ、姉のことが好きだった。
 ただ、母のためになりたかった。
 他人の悪意に染まらず、言われた言葉は正面から正直に受け取ってしまう、そんな「単純」な青年。

 イアンのことを、数少ない友人は、

「曇りがなくて、自然体で、その頃の俺の理想だったのかも。」

 しかし、世界は、純真に生きていくには、「白く」ない。
 そして彼の「白さ」を試すかのように、世界は「黒く」、イアンを圧する。

 物語の大筋を晒すような、野暮なことはしません。
 ただ、以下のキーワードに抵抗を感じる方は、止めておいたほうがいいかもしれません。

 児童虐待アルコール中毒、ゲイ、エイズ、近親相姦……

 どれもこれも、一つ一つが、ボディブローのようにジワジワと、人を壊してしまう痛恨打。
 誰にも、ましてや政治なんかに、その責任の所在を求めることは出来ない。
 ただ、遭ってしまった。
 めぐり合わせの不運としか、言いようがない。
 人は、生まれながらに、平等なんかじゃなく。
 そしていつも、いつだって、弱い人間が、歪を背負う犠牲を押し付けられて、忘れ去られる。

 冒頭で、イアンの人生は、本として出版される。

「運もツキもない男の話で、結局、人違いで殺されるんだ。」

 どうして世界は、「いい人」から、どうでも「いい人」のように、処理していくのだろう。
 ずる賢くなければ、自己中心的でなければ、他人を平気で裏切れなくては……幸せにはなれないのだろうか?

 真面目に生きれば馬鹿を見る。
 憎まれっ子、世にはばかる。
 そんな世でも、努力する人こそを「強い」と、私だけでも、褒め称えたい。 

 こんな駄目な世界でも、それでも生きていくんだと、決意したい気分の時に、覚悟があれば、是非。
 一人の人間に降り注ぐ、ありとあらゆる不幸が、そこに。
 そして、そんな不幸をなくすために、出来れば、みんな、生きていきませう。