パーシヴァル・ワイルド 「悪党どものお楽しみ」

 はじめまして、フルカワと申します。
 登録していただいてから、かなり時間が経ってしまったのですが、賭博ミステリー『悪党どものお楽しみ』の紹介したいと思います。

 舞台は、禁酒法の施行で開幕する、アメリカ「狂乱の1920年代」。
 賭博師家業から足を洗った・若き農夫ビル(ウィリアム)・パームリーは、農場近くの田舎道で車を溝に落としてしまった女性と出会います。その女性ミセス・アンソニー・クラグホーン(ミリー)の夫のポーカー連敗と、その相手サトリフの成功話を聞いていくうちに、あることを思い出します(【カードの出方 The Run of the Cards】)。
 ビルがその知識と経験でいかさま師たちのトリックを暴いていく、全八編の連作ミステリー短編集です。

 主要な登場人物は、24才の元・賭博師ビル・パームリー。年上でお人よしの、富豪の友人アンソニー・クラグホーン(トニー)。その妻ミリーの三人。アンソニーが厄介ごとに巻き込まれ、嫌々ながらビルが助けに行くというのが大方の話の流れです。
 いくつか簡単なあらすじをあげると、
 ビルすら敬服する賭博師ピート・カーニーを相手に、いかさまを暴いてくれという依頼を受ける。【ビギナーズ・ラック Beginner's Luck】
 水着、浜辺でのいかさまポーカーは果たして成立するのだろうか。【火の柱 The Pillar of Fire】
 あるチェスクラブから、いかさまで嫌なやつの鼻を明かしてほしいと依頼を受ける。唯一の問題は、ビルがチェスの素人だということで……【アカニレの皮 Slippery Elm】
 など。小気味良い展開、軽妙な台詞回しは、ミステリー・ファン以外にもおすすめです。

「君はわかってないんだよ」トニーは得意げに笑った。「自分がどれほど評判になっているのかをね。その昔、ゲームでペテンにかけられたと思ったら、ゲームを止めるだけだった。この頃は、引き下がろうとすら思わない。そいつはただ、ビル・パームリーを呼びにやるのさ。ビル・パームリーは、物事をあるべき姿に戻すことができる。他の誰一人としてできなくてもね。ビル・パームリーあるところに、希望ありだ。僕らの標語は、『まず我らのところへ!』さ。これが君のためにやってきた、ささやかで分別のある宣伝だよ!」
「トニー、君を殺してやりたいよ!」(【エピローグ】より)


 物語の中には、ポーカー、ルーレット、カシーノなど賭け事が出てきますが、全く分からない私にも臨場感が伝わってきます。
 悪党がやり込められる爽快感を味わいたい方はぜひ読んでみてください。