木崎ひろすけ「少女・ネム」

少女・ネム (Beam comix―Hirosuke Kizaki memorial edition)

少女・ネム (Beam comix―Hirosuke Kizaki memorial edition)

 あなたの好きな漫画をひとつ挙げてください。と頼まれるとする。
 僕は多分、大いに悩んだ末、高い確率でこの作品の名を挙げるだろう。

 そこに詰まっているのは、たわいもない少女の日常。

 そこに詰まっているのは、「漫画」をつくる、という異能を巡る人々の葛藤、逡巡、欺瞞、打算。

 ときには美しく、時には醜い、それゆえに輪郭のくっきりした「人間」たちがそこには描かれている。
 途轍も無くしなやかで麗しい描線に全てはふちどられ、頁の中に、世界があるがままに浮かびあがっている。

 僕は、この作品を愛した。

 僕は、この少女に憧れた。

 残念ながら、この作品は完結していない。
 そしてこれからも完結することは決してない。
 作画を担当した木崎さんは、もう既にこの世界にいない。

 惜しまれる才能、というものがこの世にあるならば、おそらくそれは、このような形をしているのだろう。

かんでたくま。