本多孝好『MOMENT』

 Cichlaと申します,はじめまして。本多孝好の短編連作「Moment」を紹介させていただきたいと思います。

MOMENT (集英社文庫)

MOMENT (集英社文庫)

 病院でバイトをしている主人公は,とある事件をきっかけに病院内で囁かれる都市伝説「必殺仕事人」に関わっていく事になります。それは,死に際の患者の願いを一つだけ叶える存在。主人公は,「必殺仕事人」に成り代わる事で,死を待つ様々な人々の終焉に関わっていきます。

 「日常の謎」に属するミステリーの体裁を持っていますが,謎解きは物語の主眼ではなく,あくまで物語を盛り上げるための装置として機能しています。依頼人に関するささやかな謎が解きほぐされた時,彼らの何気ない言動に込められていた切なる願いが顕わになる。その叙情性こそが,この物語の主題としてあります。

 文体は,所謂「春樹チルドレン」のもので,瑞々しく幾分センチメンタル。ローテンションで韜晦を好む主人公のキャラクターは,ライトノベル泣きゲーの愛好家と特に親和性が高いのではないかと思います。

『最後のお願い。もしも今年と同じような夏がきたら,そのときは私を思い出して』

 作中のこの台詞に惹かれるものを感じた方は,是非ご一読下さい。そして,もし気に入っていただいた方には,同作者の短編集「Missing」「Fine Days」をお勧めいたします。