翼の帰る処〈2〉鏡の中の空〈上〉 (幻狼ファンタジアノベルス)

翼の帰る処〈2〉鏡の中の空〈上〉 (幻狼ファンタジアノベルス)

主人公ヤエトは北嶺と呼ばれる帝国北部の辺境に左遷されてきた文官で、有能ですが虚弱体質で隠居ばかり夢見ている36歳の独身男性です。ところが新たに太守となった皇女の副官に任ぜられた事からその生活は一変。基本的に真面目なヤエトは様々な難題に体力をすり減らし毎度熱を出してぶっ倒れるのですが、困った事に北嶺の民と皇女の双方からどんどん慕われていきます。さらには帝国の権力闘争、そして神から与えられた特殊能力“恩寵”をめぐる大きな時代のうねりが次々に襲いかかり、あわれヤエトの隠居の夢は遠ざかるばかり、とそんな話です。


数年単位の歴史と100年単位の歴史が共によく練り上げられ、一方で北嶺で暮らす日々のなんやかんやも丁寧に描写され、また隠居志願のヤエトを筆頭に気は強くてもまだ幼い所も残る皇女やちょっと斜に構えたところのある美形の騎士団長、砂漠の悪鬼と呼ばれた老兵などキャラクターも立っています。これを十二国記デルフィニア戦記の間くらいという絶妙な硬さの読み口でぐいぐい読ませるんですよね。面白さで両作品と比べてもまったく遜色ありません。


今一番面白いファンタジーだと思います。おすすめ。


(追記)鳥のことを書き落としました。タイトルのもとになってますが、騎乗用のでっかい鳥が活躍する鳥FTでもあります。鳥FTというとナウシカ伊東京一『バード・ハート・ビート』を思い出しますが、単なる世界設定にとどまらずがっつり作品に貢献している点や厩舎の描写などからむしろ久美沙織『ドラゴンファーム』シリーズのほうが近いですね。


hatikaduki