松田未来 『Unlimited Wings(アンリミテッド・ウィングス)』

 世界陸上、全国高校野球大会も閉幕し、いよいよ夏も終わりという気分が盛り上がってきた昨今、世の中にはそんなメジャーな大会ばかりでなく、全国大会といっても数十人な色んな夏も、知らないだけでたくさんあったんだろうなぁ、な今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか、fruitskukuruです。

 さて今回は、俺はメジャーな大会よりも、誰も知らないマイナーな大会の方がドロ臭くて熱くて好きだぜ、という気分に、この一作。

 熱闘であるっ!

 これがエアレースか! やっぱイカレてるぜこいつら…!
 使えるのはパイロンの外側だけ…(最低高度15m)
 蒼空に目印なんて無く 地上のパイロンもロクに見えない
 ――”カン”だけで700km/h出してんのかコイツら……!!

 エアレース。
 ネバダ沙漠の蒼空の下、レシプロ機を駆り、超低空で繰り広げられる、ただ速さだけを求める猛禽たちの宴。
 己の命を勝利の女神に捧げた少女は、”赤い悪魔”を倒す、ただそれだけを求めて、空を斬る翼を得るために日本へと向かう。

 はい、もう、文句なしに熱血です。男の子の物語です。
 ただ速さだけを求めて。地上スレスレの空を翔る、バカな奴らの祭典。
 そんな命懸けのレースってだけで燃えるのに、主人公の駆る機体が、「かつて旧帝国陸軍が最速を求めて設計した幻の機体」で「尾翼のない二重反転プロペラ機」となれば、燃えないほうがどうかしている。
 しかもそれを、東京下町の中小企業のオヤジたちが造り上げるのである。
 表紙の美少女にだまされてはいけない。それは明らかに角川書店の罠である(笑)
 男と、オヤジと、爺さんたちが紡ぎ上げる、空に全てを捧げた純粋な『オトコ』たちの魂の叫びの軌跡。
 それが、『Unlimited Wings』である。

「しゃきっとせい! 若造ども!!
 儂らが60年前に戦ったメリケン人は、そんなにヤワでは無かったぞい!
 日本工業界の中核を担って来た職人の根性を注入してくれるわ!」

 もう、全編、こんなノリ。
 古臭いし汗臭いし水臭いしで、しかしだからこそ、この物語は胸に迫る。
 空を飛ぶのも、飛ばすのも、それを整備する者たちも、すでに時代に忘れ去られた骨董品たちばかりだ。
 いつ飛べなくなるか分からない、そんな滅びを約束されたものたちの宴に、今、若き翼が斬り込んでいく。
 
 本気で泣ける権利は、全力で立ち向かった者だけに与えられる。

 クールでスタイリッシュじゃ、得られない物がある。
 慟哭して絶叫して歯を食いしばって血を流してこそ、得られる実感は絶対にある。
 見栄も建前も心の殻も取っ払って、むき出しの魂で吼える彼らの生き様に、どうして魂が震えぬことがあろうか。

 狂えるほど何かに挑みたい、そんな後押しが欲しいときに、是非。
 全てを『速さ』に注ぎ込んだプロたちの、妥協のない本物がそこにある。
 ――大人が真剣に遊ぶと、スゴイぞ。