松本淳 + 田中渉『ラブコメ』

 残暑厳しい日々が続きますが、むしろ立秋してから夏本番、異常気象という言葉が決まり文句になって久しい昨今、長梅雨の影響で秋からの野菜価格高騰が心配な今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか、fruitskukuruです。

 さて、今回は、圧倒的に幸せニヤニヤ気分を味わいたい気分の時に、この一冊。

ラブコメ

ラブコメ

続きを読む

久住昌之×谷口ジロー『孤独のグルメ』

孤独のグルメ (扶桑社文庫)

孤独のグルメ (扶桑社文庫)


こんにちは。緋莢です。
今日、紹介するのは『孤独のグルメ』という漫画です。

皆さんは、料理・グルメ漫画というと何を思い浮かべるでしょう?
やっぱり『美味しんぼ』?それとも『ミスター味っ子』?
最近、話題になった作品で『深夜食堂』?
それとも『天才料理人 味の助』?
(って、あれを料理漫画と言っていいのか・・・)

さて、この『孤独のグルメ』、主人公は井之頭五郎という名の中年男性です。
職業は輸入雑貨を扱う貿易商。
というのは仮の姿、本当は某有名レストランガイドの覆面審査員・・・
なんて事もなく、普通の貿易商です
(といっても、仕事の場面はほとんど出てきませんが)

この井之頭五郎が毎回、色々な所で食事をするのですが
“有名料理店”や“高級食材”は全く出てきません。
五郎が食べるものは、食堂のぶた肉いためであったり
駅の売店で買ったシュウマイ弁当だったり
野球場でのカレーライスだったり、とタイトルに“グルメ”と
ついている割には“普通”の物ばかりです。

そして、それらの食べ物の薀蓄が語られるわけでもなく
五郎の食べる描写が淡々と描かれるだけです。
でも、その静かさが非常に良いです。
過剰な薀蓄や描写がなくても、五郎が食べている物の“美味しさ”が
きちんと伝わってきます。

自分も、ふと思い出した時に、この本を手に取り
1、2話読む、というのを何回もしています。
お気に入りは川崎で焼肉を食べるエピソードで
これを読むと無性に焼肉が食べたくなります。

『Butterfly Effect』

 Cichlaです。前回はあっさりした紹介文でしたが,今回は私的な思い入れを含めて,濃厚風味でいかせてもらいたいと思います。

 というわけで今回紹介するのは,『Butterfly Effect』という映画です。
 本作品は,主人公が何度も時間を遡り,歴史を修正しようとする,「タイムトラベルもの」に連なる映画です。ハインラインの『夏への扉』を始めとして,これまでに無数の作品に取り入れられ,無数の傑作を生むのに貢献してきたアイデアですが,それらの中でも本作品はかなり上質の部類に入ると思います。

続きを読む

翼の帰る処〈2〉鏡の中の空〈上〉 (幻狼ファンタジアノベルス)

翼の帰る処〈2〉鏡の中の空〈上〉 (幻狼ファンタジアノベルス)

主人公ヤエトは北嶺と呼ばれる帝国北部の辺境に左遷されてきた文官で、有能ですが虚弱体質で隠居ばかり夢見ている36歳の独身男性です。ところが新たに太守となった皇女の副官に任ぜられた事からその生活は一変。基本的に真面目なヤエトは様々な難題に体力をすり減らし毎度熱を出してぶっ倒れるのですが、困った事に北嶺の民と皇女の双方からどんどん慕われていきます。さらには帝国の権力闘争、そして神から与えられた特殊能力“恩寵”をめぐる大きな時代のうねりが次々に襲いかかり、あわれヤエトの隠居の夢は遠ざかるばかり、とそんな話です。


数年単位の歴史と100年単位の歴史が共によく練り上げられ、一方で北嶺で暮らす日々のなんやかんやも丁寧に描写され、また隠居志願のヤエトを筆頭に気は強くてもまだ幼い所も残る皇女やちょっと斜に構えたところのある美形の騎士団長、砂漠の悪鬼と呼ばれた老兵などキャラクターも立っています。これを十二国記デルフィニア戦記の間くらいという絶妙な硬さの読み口でぐいぐい読ませるんですよね。面白さで両作品と比べてもまったく遜色ありません。


今一番面白いファンタジーだと思います。おすすめ。


(追記)鳥のことを書き落としました。タイトルのもとになってますが、騎乗用のでっかい鳥が活躍する鳥FTでもあります。鳥FTというとナウシカ伊東京一『バード・ハート・ビート』を思い出しますが、単なる世界設定にとどまらずがっつり作品に貢献している点や厩舎の描写などからむしろ久美沙織『ドラゴンファーム』シリーズのほうが近いですね。


hatikaduki

栗本薫『真夜中の切裂きジャック』。

 作家栗本薫は、一般に、長編の人として知られています。

 個人が書いたものとしては世界一の長さを誇る『グイン・サーガ』を初め、『魔界水滸伝』、『夢幻戦記』、『天狼星』、『六道ヶ辻』など、数々の大長編をのこしている。

 しかし、少なくとも全盛期の栗本は、短編作家としても、稀有な異能を発揮していました。その証拠を収めたショーケースが、即ち、本書『真夜中の切裂きジャック』です。

 表題作『真夜中の切裂きジャック』を初めとする七本の短編が収められているのですが、いずれ劣らぬ切れ味、しかし、ここでぼくが取り上げたいのは、歌舞伎俳優を主人公にした「獅子」と「白鷺」の二本です。

 代表作『絃の聖域』を読めばわかるとおり、この手の芸道小説を書かせると、このひとはうまい。本当にうまい。芸に生きるものたちの、常人には理解されえぬさだめの修羅を、克明に描き出して間然としません。

 特に「獅子」は、迫り来る死を目前にして、なお、芸道に打ち込み、一生の成果を半年のうちに成し遂げようとする若者を描き、読者を打ちのめします。

 そしてまた、その文章の、独特のリズム、これが、いちど嵌まってしまうとたまらない魅力に思えてくるのですね。

 その――
 霏々として吹きあれる雪の中で、赤いものが、しだいに大きくふくれあがって、人々の心をぬりつぶしはじめている。鷺の精が、踊り狂い、救いをもとめ、のたうつたびに、その、雪をそめる鮮紅のいろは、このあやしい変化の生きものの足をしたたり、純白の雪をさながら雪姫が描いて生命を得たねずみのように、生命あるものにふるえおののかせる。

「白鷺」

 栗本薫の作品を読んでみたいけれど、大長編ばかりでちょっと、という向きは、ここから入って見るのもいいかもしれません。良くも悪くも、彼女のエッセンスが詰まった短編集です。

 『孤独のアニメ』 〜劇場版美少女戦士セーラームーンR 

 こんにちはtyokorataです。今回のお題は非モテ非コミュへのメッセージアニメ、『劇場版セーラームーンR』です。

 「人を殺すにゃ包丁はいらぬ、孤独にさせればそれでいい」

 もっとも孤独になった秋葉原事件の彼は他人を殺しに走ったわけですが。

 キーワード「誰でも良かった、自分を注目してくれる事件を起こしたかった」

 もてない事、孤独への絶望は加藤氏を秋葉原事件へといざないました。
同様な事件は佐世保のスポーツジム殺人事件、津山の32人殺しなどがあります。

 以下マザーテレサのお言葉

 ひとりぼっちの寂しさと誰からも必要とされていないという思いは、最も恐ろしい貧困である。by マザー・テレサ

美少女戦士セーラームーンR [DVD]

美少女戦士セーラームーンR [DVD]

 そして孤独を描いたアニメがこちらです。本来なら作品の魅力を語るために自分で千言万語を繰るべきですが、作品の魅力を伝える為なら私は手段を選びません。

 動画は子供向けにしては難解で、子供づれで来ていたお母さんが微妙な顔をしていたのが印象的だった、劇場版セーラームーンRの裏主人公のフィオレの孤独を語る場面です。

 この作品が作られた時代は1993年でまだ社会的弱者がそれほどクローズアップされてないバブルの余波があった時代でしたが、今のような弱者が切り捨てられる時代だとこの映画はひときわ重く感じられます。 
 
 彼女や友人もなく工場とアパートの往復をする若者、派遣労働で日銭を稼ぎつつも何のために生きるのかと自問自答する就職氷河期世代、妻と別れ、会社からもリストラされた50代・・・。

 何のセーフティーネットもない社会は孤独を拡大再生産していきます。

 そんな社会の大海原に非コミュの人間が放り出されたとき、彼は真の孤独をかみ締める事になります。自分を変えるという選択肢に気付くまでは。

 作品の構図的には、誰も信用できない孤独な敵のフィオレ(非モテ非コミュ)が、誰からも愛される主人公を「嘘つき」だと思い殺そうとする、子供向けの作品にしてはかなりヤバメのお話です。

 

 上記の動画はフィオレが裸のムーンの胸をガン掴みしているように見えるけど、気のせいです。このシーンを一緒に見ていたママさんたちの困惑した顔は未だに忘れられません。

 フィオレ「お前も僕と死ぬんだ」
 ムーン「何を怖がっているの、貴方はひとりじゃないわ」
 フィオレ「うそだ、優しいふりをして僕を騙そうとしているだけだ!」

 オタクや非モテの凍てついた心のフルアーマーぶりは、プラモ狂四郎もさじを投げるほどです。それを体現したフィオレの「やさしいふりをして僕を騙そうとしているだけだ」という言葉が実に重たいです。

 幾原監督はこの映画を作る事で、オタクに「現実に帰れ」とメッセージを投げつけましたが、渾身のメッセージを理解した上で根拠のないプライドが邪魔をして人生を生きにくくしている私がいるようでは、作品で人間を救うなどとは無理の一言。

 きっかけにはなるかもしれないけど、あとは自分次第ですね。

 wikiによると、この映画のお陰でエヴァンゲリオンが生まれたそうです。

 何処までホントかは分かりませんが。

<本作に感動した庵野秀明は映画館で三度観た[11]。また、映画のビデオを貞本義行に見せて、準備中だった「新世紀エヴァンゲリオン」の碇シンジの声は緒方恵美しかないと力説した[12] 。緒方恵美は本作で衛の少年時代の声を担当している。>

http://ja.wikipedia.org/wiki/劇場版美少女戦士セーラームーンR

 フィオレの胸に寄生しているキセニアンは人間の弱い心に寄生する寄生種ですが、私の主観だとフィオレにアドバイスしたり、間違った事に力を貸す辺り、過保護な母親の元で性的、精神的自立が遅れる子供と母親の構図に見えました。

[11]
「さらばセーラームーン 夢特集 幾原邦彦」(ハッピー興行新社)の中の庵野秀明の寄稿より。
[12]「eve 2015年の女神たち―新世紀エヴァンゲリオンPHOTO FILE」(角川書店)の中での貞元の発言より

 毎回取りとめのない内容でしたが、孤独と救済の必要な社会になりつつあると実感する世の中だけに、人を信じる事の大事さを作品を通して見てみるのもいいかもしれません。

熊倉隆敏『もっけ』

はじめまして、fruiskukuruと申します。
今回は、めでたく完結記念の意味も込めて、『もっけ』を紹介させて下さい。

もっけ(勿怪) 1 アフタヌーンKC

もっけ(勿怪) 1 アフタヌーンKC


「奴らは居ンのが当たり前ェ」

との帯が、最終巻に勢い良く巻かれている『奴ら』とは?
察しの良い方には題名でピンと来るかもしれませんが、勿怪、物の怪、平たく言えば妖怪のことです。


民俗学柳田國男鳥山石燕のキーワードにキュンと来たら、一読の価値があります。
逆に、妖怪=水木しげるの方だと、少し肩透かしをくらわれるかも知れません。


物語の主人公は、表紙に描かれている二人の姉妹。
彼女たちは親元を離れ、拝み師の祖父のもとで暮らしているのですが、その理由は、

中学二年生の姉は、『もっけ』が見えてしまう。
小学五年生の妹は、『もっけ』に憑かれやすい。

まぁ、この設定を逆方向に活かすと簡単にバトル漫画になってしまいそうですが、この物語は基本、二人の少女の成長をテーマに進んでいきます。
日常的に『もっけ』と遭遇してしまう彼女たちにとって、『もっけ』に遭うのは、病気にかかるのと同じくらいの不幸でしかありません。
同級生とは共有できない特異体質を抱えながら、頻発する『もっけ』との遭遇をどう解決していくのか。
『見える』『憑かれる』という以外に何の戦闘力もない普通の少女たちは、祖父の助言を受けながら、少しずつ、『もっけ』との付き合い方を覚えていきます。


「奴らは居ンのが当たり前ェ」だから、退治なんて問題外。
しかし、放っておいたら病気が悪化するように、『もっけ』に憑かれたら、時に命に関わる危険すら。

物静かで文学少女な姉と、元気だけが取り得の普通の妹が織り成す、ひょっとしたらあなたの身にも起こりうる妖怪物語。

・突然、道の真ん中で死ぬほどの空腹に襲われて一歩も動けない。
・いきなり、何もない平地でつまづいて派手に転んで動けない。

なんていう状況に、もし今後遭遇したら……本書を読んでいれば、助かるかも?

あ、黒髪ストレートなオドオド系文学少女、という部分に単純に萌えるだけでも、十分本書は楽しめますのでご安心を。
基本、すっごく地味なんですけどね。